熱工程

サマーマルプロセスとも言いますが、半導体ではインプラ後の不純物活性化や膜質改善などに用いられます。1000℃以上に加熱する場合もありますが最近は低温化しています。ここではコンパクトに解説してみましょう。

半導体工程中には多くの熱処理があります。減圧にした石英チューブやSiCチューブ中に窒素、アルゴンガス、水素などを導入しシリコン基盤を加熱して膜質を改善強化したりインプラで打ち込んだ不純物をシリコン中に拡散させp型、n型半導体をつくったりします。装置的にはヒーターで加熱するFTP(Furnace Thermal Process)ランプ加熱で急速加熱するRTP(Rapid Thermal Process)があります(図1)。

図1-サーマルプロセス

図1-サーマルプロセス

熱工程には大きく分けて次の3つが考えられます。
①熱酸化膜成長(サーマルオキサイド)                                            ②アニール:インプラ後の結晶性回復や膜質改善                               ③インプラ後の不純物活性化(押し込み拡散、
引き伸ばし拡散またはドライブインディフュージョンとも言う)

まずは①の熱酸化膜です。サーマルオキサイドと言います。酸素や水蒸気を導入して加熱するとシリコン基板上に酸化膜が成長します。これは基板のシリコンと酸素が反応してできたものです(図2)。

図2-熱酸化膜(サーマルオキサイド)

図2-熱酸化膜(サーマルオキサイド)

酸化方式で酸素を使用するものをドライ酸化、水蒸気を使用するものをウエット酸化、水素と酸素を炉内へ導いて爆発的に酸化させるものをパイロジェニック酸化と言います。塩素などのハロゲンガスをゲッター剤として添加することもあります。
温度は半導体工程中では最も高く1000℃以上です。成長した熱酸化膜を通して酸素が供給されシリコン界面と反応して徐々に酸化膜が成長して行きます(Si+O2=SiO2)。シリコンが酸化膜に変化してゆくので元々の基板の面から上方へは45%、下方へ55%成長します。出来上がりはシリコン基板へ酸化膜が埋め込まれた形になりますのでLOCOS素子分離に使われます。また最高品質の絶縁膜ですのでMOSトランジスタのゲート酸化膜になります。実はシリコン基板に直接付けてよい膜はこの熱酸化膜だけと言ってよい程です。シリコン面はデバイスを作る大切な所ですから変な膜は付けられません。前項のインプラの場合も閾値調整ではこの熱酸化膜を通して不純物を打ち込みました。

熱酸化膜は下地のシリコンとの反応ですから結合が強く、高温でありプラズマなどの荷電粒子も使用しませんので膜にピンホールや欠陥、不純物、荷電粒子などが存在しません。ちょうど氷のようなイメージです。従って最も膜質の信頼性が要求されるゲート酸化膜やLOCOS素子分離工程に使用されます。この熱酸化膜は基準になりえます。氷は世界中どこへ行っても大差はなく氷です。一方CVDは条件が様々あり、プラズマは特に低温のため膜質が劣ります。CVD膜は単に膜の上に成長させるもので下地は変化しません。雪が地面に降り積もるのに似ています。雪は場所によってかなりの違いがあります(粉雪からボタ雪まで)。半導体ではよくサーマルオキサイド換算で・・・と言う言葉を耳にしますが、何かの基準を定める場合に使用されます。フッ酸のエッチレートなどもCVD膜ではバラバラになりますので熱酸化膜を基準に定義します。工場間で測定器の機差を合わせる場合などにも使われデバイスの製造移転などにデータを付けて仕様書を作ります。

次は②のアニール(Anneal)です。日本語では“焼きなまし、加熱処理”ですが熱を加えて膜質を強化したり結晶性を回復させたりします。特にインプラ後では打ち込み時の重いイオンの衝撃で結晶はアモルファス化しています。熱を加えて原子を振動させ元の格子点の位置に戻してやります。温泉治療のようなものです。結晶に欠陥が残るとそこがリークパスになってPN接合部にリーク電流が流れデバイスがうまく動作しなくなります。

アニールは③の不純物活性化(押し込み拡散)と同時に行って兼用する場合が多いものです。図3はトランジスタ周辺の熱工程を示しています。LOCOSとゲード酸化膜は熱酸化膜です。図でコンタクトにTi/TiNバリア層がありますが、この場合スパッタやCVDで付けたバリア層の質が悪いとバリアになりませんから熱を加えて膜質の改善を行うことがあります。その場合に膜が酸化されない様に装置の残留酸素を極力少なくすることが必要です。 またトランジスタのソース、ドレイン、ゲートの表面にTiSi2という膜が作られています。これはシリサイドというシリコンと金属の合金のようなものです。チタンで作られていますのでチタンシリサイドと言いますがタングステンやモリブデン、コバルトの場合もあります。

図3-トランジスタ周辺の熱工程

図3-トランジスタ周辺の熱工程

この部分は電極ですので低抵抗である必要があります。シリコン半導体だけでは低抵抗化ができない場合にシリサイドを形成します。この場合にも金属を付けてから熱を掛けシリコンと反応させます。加熱温度は600度程度です。未反応の金属は酸で洗浄して取り除いています。図中でBPSGリフローと言う工程があります。BPSGとはボロン(B)とリン(P)が入ったシリケードガラスと言う意味で酸化膜(SiO2)中に添加物が入ったものです。一般に混ぜ物をした酸化膜は不安定で空気中の水蒸気や酸素を反応して巨大な結晶を作ったりします。キラキラ輝いて見えるのでクリスタルディフェクトなどと呼んだりします。デポジション後直ぐに熱を加えて溶かし安定化させています。BPSGはボロン(B)が融点を下げ溶け易くしています。そして溶けた溶岩が流れて谷間を埋め尽くすようにデバイスを平坦化させます。CMPが普及する前の古典的な平坦化の方法です。リン(P)はゲッター剤で外部からデバイスに進入してくる汚染物質を捕まえて固定します。Na+イオンが典型ですがこれがシリコン中に入ると巨大な荷電粒子として振舞うのでトランジスタ特性に影響してきます。BPSGの使用によってデバイスは安定して動作することができます。

写真1-BPSGのリフロー

写真1-BPSGのリフロー

写真1はリフロー前後のものですが、加熱によりBPSGが溶けて段差を埋め平坦化されていることがよく判ります。現在の先端デバイスではリフローだけの平坦化では不十分なので加えてCMPで平坦化しております。 CVD膜もデポ後の加熱で膜質は向上しますのでそのような目的で加熱することもあります。Low-K剤でもあるSOGやSODもキュア(Cure)と言って400℃程度で加熱し改質させています。

デバイス製造の最後の方にシンター(Sinter)、H2アニールまたはアロイ化という工程があります。N2雰囲気またはH2雰囲気中で450℃程度の温度で加熱処理するものです。これには2つの目的があり一つはアルミ金属の強化です。アルミはスパッタしただけでは弱すぎて使えません。電流を流すとすぎ切れてしまいます。エレクトロマイグレーションという現象でアルミが移動して断線します。マイグレーションにはストレス性のものもあります(ストレスマイグレーション)。デバイスは積層構造でアルミ配線はサンドイッチ状に絶縁膜で挟まれていますから常にストレスを受けています。アルミを強化するには加熱が一番です。アルミの結晶は寄り集まってより大きな結晶へと成長し簡単には移動しなくなります。ちょうど砂粒が集まって岩になるようなものです。顕微鏡で観察すると加熱前、砂砂漠だったようなアルミの表面が干からびた田んぼのような大きなアルミ結晶に成長しているのが確認できます。二つ目の目的は結晶欠陥の緩和です。半導体工程では結晶にとって過酷な条件で行われています。荷電粒子のダメージではインプラ、プラズマCVDやETCH、物理的なものではイオンの衝撃力、熱による歪みなど様々です。結晶は至る所傷めつけられて傷だらけになっています。これらシリコン中の欠陥はキャリアの移動を阻害して特性を悪くさせます。またゲート酸化膜とシリコンの界面などでは結合がそこで切れていますから電気的に不安定です。H2処理では水素が切れているこれらシリコン結合端と手をと結びついて終端します。ターミネーションと呼びます。これにより見かけ上欠陥が無いことになり特性は安定し向上します。まさに魔法のようなプロセスです(図4)。

図4-水素アニール(イメージ)

図4-水素アニール(イメージ)

③のインプラ後の活性化は前項で述べました。インプラでもそうですがシリコン面を相手にするプロセスでは金属汚染は最も避けなくてはなりません。拡散係数Dというものがあります。1秒間にどのくらい広がるかで単位はcm2/secです。ヒ素AsやアンチモンSbは重いので拡散係数は低く浅い接合向きです(1000℃で10-15台)。ボロンBは軽い物質で拡散係数が高く浅い接合が作れません(1000℃で10-13台)。従ってBF2+など重い材料が登場しました。大雑把に言えば1000℃で1時間に1ミクロン拡散します。これに対し金属は温度にもよりますが10-6台もあります。あっと言う間にシリコンを付き抜けてしまいます。熱工程に入れる前には金属汚染物、有機汚染物を確実にクリーンしておく必要があります。この辺りはウエットプロセスで解説しています。

このように熱工程には色々ありますがここ10年の単位でサーマルバジェット(熱履歴)や低温化が問題化してきました。インプラで取り上げましたがトランジスタの種類と数は増加の一途でインプラ回数も増加しています。インプラ後は熱を掛けなくてはならず、熱工程を経るごとに不純物は薄くなりかつプロファイルを変化させながらシリコン中を拡散してゆきます。熱履歴を制御しないとデバイスが作り込めなくなってきました。以前はFEOL(前工程)は素子を作る所なので高熱は問題ありませんでした。BEOL(後工程・配線工程)のみ500℃以下で行えば事足りていました。現在ではデバイスの複雑さ、微細化や熱に弱い素材の導入などによってFEOLでも低温化せざるおえない状況になりました。Low-Kなども低温でプロセスしなくてはなりません。低温化の一つのアイデアはRTP(Rapid Thermal Process)です。
短時間に加熱するものでインプラ後の不純物拡散を抑えて浅い拡散層(シャロージャンクション)を作ることができます。拡散炉はじわっと温泉型、RTPはサウナ型かも知れません(図5)。

図5-RTPプロセス

図5-RTPプロセス

ただし急激な加熱や冷却はシリコン面へスリップ転移という欠陥を走らせることもあり注意が必要です。現在の装置では拡散炉はRTPの要素を取り入れてより急加熱できるよう、またRTPはゆっくり加熱できるような構成に移ってきました。お互いの良いところに学んだ結果です。

 

 

 

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