インプラント

インプラント(不純物打込)工程は主にP型、N型半導体を作る工程ですがここではコンパクトに解説致します。

インプランテーションは不純物注入(打ち込み)とも呼ばれます。基板のシリコンへ不純物をイオンの形で打ち込んでp型半導体やn型半導体を作ります。トランジスタの形成にキーとなる技術です。図1はトランジスタ周辺のn、p拡散層を示しています。MOSトランジスタにはp型、n型がありますがそれぞれに多種のトランジスタが混在していてインプラの回数はデバイスを追う毎に増加の一途です。

図1-トランジスタ周辺のIMP工程

図1-トランジスタ周辺のインプラ箇所

装置の概要は図2に示していますが、質量分析器を中心にして組まれていて、引き出し電極を持ったイオンチャンバと加速管、プロセスチャンバから成り立っています。イオンチャンバーではガスまたは固体ソースをアーク放電でイオン化させます。ガスの種類としてはPH3やAsH3がn型用の不純物でBF3、BCL3などがp型用の不純物用です。ガス以外のソースではAs2O3(固体)やPOCL3(液体)、BBr3(液体)、BN(固体)などがあります。半導体ではETCH、CVDではグロー放電によるプラズマを利用しています。こちらは蛍光灯のようなものでイオン化率は低いものです。一方インプランタの放電はアーク放電ありで強プラズマです。よく見る例では工事現場などでアーク溶接や切断に用いられており高エネルギです。イオンの数が欲しいので弱電離では効率が悪く、従ってアーク放電でほぼ完全にイオン化しています。この部分は1000℃以上の高温になりますので、一般の金属は使えずモリブデン(Mo)やタングステン(W)の高融点金属でチャンバを作っています。

図2-インプラ装置概要

図2-インプラ装置概要

イオン化された様々な物質は引き出し電極によって加速され質量分析器に飛び込みます。ここで希望のイオンを選別する訳ですが、磁場偏向型質量分析器を用いています。質量分析器には他に静電偏向型や組み合わせ型もありますが、これは装置をコンパクトに仕上げるためです。 イオンは種類により自ら持っている電荷Qとその質量mの比は決まっています。AMUと言いますが質量数、重さです。p型半導体を作るB+は11、BF2+は49、n型半導体用のPは31、Asは75です。

式-1

式-1 Q/m比

このことを利用して質量分析器の磁場の強さを変えて希望のイオンを選択します。希望のイオン質量数の近くに色々なイオンが存在していますので分解能が悪いと希望のイオンを選択できず別のイオンを打ち込んでしまう確立が多くなります。これをエネルギコンタミネーション(別物質による汚染の概念)と言います。

質量分析器で希望のイオンを選択したら次に加速管で加速してやります。イオンに運動エネルギを与えてシリコンに打ち込むためです。トランジスタ形成には色々な深さのp、n層(拡散層と言う)が必要です。高エネルギから中エネルギを経て低エネルギまであり色々な深さでイオンを打ち込めるようにしていますが、1台の装置で全てはカバーできないので専用の装置を使うことになります。エネルギはキロエレクトロンボルト(KeV)という単位で表します。メガエレクトロンボルト(MeV)クラスもあります。またどのくらいの不純物を打ち込むかはドーズ量と言う単位で表します。1cm2当たりの不純物イオンの個数です。2次元の単位である点に注意してください。また濃度の方はcm3当たりの不純物個数になります。図3は一例で

図3-VT調整インプラ

図3-VT調整インプラ

MOSトランジスタのゲート閾値電圧調整用のインプラで、シリコン面へBF2+イオンを加速電圧140Kエレクトロンボルトで打ち込んでいます。チャネルが出来る重要な所ですので制御性よく深さを決めます。ドーズ量は2E12でいわゆる濃さです。2×10の12乗個のイオンを打ち込むとを表しています。次に角度はシリコン面に対し少し傾けて7度で打ち込みます(注入角という)。これはチェネリング対策のためです。インプラの優位点は打ち込み深さもドーズ量も制御性よく行える点です。従ってシステムLSIに代表される様なデバイス中で多数種のトランジスタ形成に適しています。インプラプロセス自体は完全物理的なので計算でシミュレーションできます。ドーズ量の測定は自動で行われファラデーカップという検出器を使います。ファラデーカップのデザインは様々ですが電極中にイオンビームを捉えて電流を計測し、逆算でイオン個数をカウントしています(電流-アボガドロ数より計算)。チャネリングとはシリコン中に入ったイオンが思いのほか深くまで打ち込まれてしまう現象をいいます。濃度分布が2山分布になってしまいコントロールできません。シリコンはダイヤモンド構造をしていますので2次元モデルでは図4のようになります。イオンが適当にシリコン原子に当たってくれれば打ち込まれた不純物の拡散は正規分布に近くなります。

図5-チャネリングのイメージ

図4-チャネリングのイメージ

ところがシリコン原子間に打ち込まれたものは格子の隙間に入り込み意外と深くまで潜り込んでしまいます。ちょうど壁に釘を打って写真でも掛けようとするとき裏側に木材がある場合は釘がすぐ止まりますが、木材と木材の間では釘は止まらずスッと入ってしまうのに似ています。これを防止するため7度という角度を付けて打ち込みます。斜めから打ち込めばシリコン原子に当たる確立が増すという理屈です。計算でも7度か最適角であることが判っております。インプラには角度を付けず垂直に打ち込むこともあります。MOSトランジスタのソース、ドレイン形成などがあります。図5はゲート電極をマスクとしてインプラを行っている様子ですが、ゲートの両脇に自動的にソース、ドレインが形成されますのでセルフアライン(自己整合)プロセスと呼んでいます。この場合は対称なソースドレインにしなければなりませんので角度0度で打ち込みます。ではチャネリングはどうして防ぐかですが、インプラする前に10nm程度のSiO2膜を付けておきます。SiO2は非結晶質(アモルファス)ですからシリコン基板のように規則正しく原子が並んでいません。不純物イオンはこのSiO2を通過する際に適当にばらけてくれます。装置の多くは注入角が可変できます。また一般にはシリコン面へ直接不純物を打ち込むことはしません。

図5-S/Dインプラ

図5-S/Dインプラ

イオンインプラでは金属汚染が問題となる場合があります。もしインプラ装置が金属を運んできたらデバイスはたちまち汚染されてしまいます。従ってシリコン面に保護膜を付けてから打ち込みます。後でクリーン工程で汚染物質を取り除きます。図5ソース、ドレイン形成インプラではチャネリング防止と汚染対策で図3では主に汚染対策でSiO2膜を付けています。以前経験したことですが、加速管の中にあるネジの先が目に見えないくらい出ていて、イオンビームがネジの金属を運んで来て汚染事故を起こしました。出来上がってくる製品のPN接合耐圧が低く全てリーク電流で不良になりました。金属汚染の典型的な例ですがシリコン面を直接扱うプロセスの怖さを今でも記憶しています。装置的にもウエハ周辺の機械部品はシリコンコーティングされる等対策も取られています。

インプラは物理現象であり重いイオンを無理やり打ち込んでいますのでシリコンの原子配列を壊してしまいます。インプラ後のシリコンはぐちゃぐちゃになっていると考えてください。このままでは結晶欠陥となりトランジスタがうまく動作しません。また打ち込まれた不純物はシリコン原子間に留まっていてこのままでは電気的に何の働きもしません。
不純物はシリコン原子と共有結合をして始めてp型やn型半導体となります。 従ってインプラ後は結晶性の回復とn型、p型半導体を作る目的で熱をかけます。900度程度で加熱すると結晶が元のように回復し、また不純物とシリコン原子が結合します。結晶性回復の方は焼きなましという意味でアニール、共有結合させる方を活性化(アクティベーション)または拡散と言います。しかし両者は兼ねて行われることが多いようです。不純物は熱工程によってシリコン中を拡散して行きシリコン原子と結合して行きます。拡散はトランジスタなどのデバイス特性を決める重要な要素ですので拡散の形状(プロファイル)も重要です。こうして出来た領域を特に拡散層と呼んだりします。P型拡散層とn型拡散層が隣り合いダイオードをそしてダイオードが隣り合いトランジスタをつくります。従ってデバイス中には多くの拡散層がある一定の濃度とプロファイルを持って存在することになります(図6)。熱を掛けて不純物がシリコン中を拡散して行く姿はちょうど水槽の水の中にインクを落として広がって行くようなものです。インクは薄くなりながら水中を拡散して行きそのプロファイルも変わって行きます。水よりも温水の方が、温水より熱水の方が早く拡散してゆきますがシリコン中の不純物も同じことです。打ち込まれた不純物はその後、熱工程を経る毎に薄くなり、プロファイルを変えながらシリコン中を拡散して行きます。ここ数年デバイスは複雑化し数多くのトランジスタをシリコン中へ作り込みますので拡散濃度とプロファイルをコントロールすることは次第に困難になって来ています。サーマルバジェットと言いますが熱履歴がデバイス特性に影響するのはこの為で、低温化が叫ばれる要因の一つです。

図6-打ち込みと活性化

図6-打ち込みと活性化

熱工程後→結晶回復→活性化

インプラはプロセスの要求により様々なものが開発されて来ましたが、大きく分けるとエネルギ的には低加速(低エネルギ)インプラと高加速(高エネルギ)型に電流的には中電流、高電流型になります。低加速型は微細化に伴い浅い接合(Shallow Junction)-浅い拡散層と読み替えてもよい-を作るためのものです。1桁台のキロエレクトロンボルト(KeV)は装置的に作るのが難しいのですが、トランジスタの縦方向の微細化のため必要です。高加速型はメガエレクトロンボルト(MeV)級でレトログレードウエル形成などに対応しています。大電流型は濃い拡散層形成用でソース、ドレインがあります。ここは電極になる部分ですから低抵抗にしなくてはなりません。また浅い接合も同時に要求されます。表1によく使われるインプラ工程名とドーズ量、エネルギを載せておきましたので参考にしてください。

表1-

表1-インプラ工程とパラメータ

低加速かつ大電流装置は難しい技術です。イオンはプラスに帯電していて、これが束になってビームを形成しています。
従ってお互い反発して広がってしまいます。高加速型なら反発して広がる前に加速されますから電流が多く取れます。低加速ではゆっくり加速するのでウエハに到達する前に広がってしまい電流が取り出せません。装置のデザインは引き出し電極を工夫したり、一度加速させてから減速させるなどの技術で低加速かつ大電流を実現させています。またインプラの問題としてチャージアップダメージがあります。プラスに帯電したイオンによってMOSトランジスタなどの薄い酸化膜(ゲート酸化膜など)が静電破壊を起こす現象です。対策としてはエレクトロンシャワーという装置が付属していてフィラメントに電流を流し、飛び出した熱電子を金属板に当てそこで発生した2次電子をビームと同時にウエハへ照射すると言うものです。万能ではないのですが特効薬です。他にビーム径を広げる、回転スピードを上げるなどがあります。インプラの打ち込みでは均一性を確保するためビームを平均してウエハに照射しなくてはなりません。中電流装置では静電スキャンと言ってX方向、Y方向の偏向板への電圧を変化させてビームを振らせて照射します。大電流装置ではビームは固定でウエハを台座に固定し回転させます。いずれにせよインプラのビームスキャンは一筆書きです。近年はマイクロユニフォーミティと言う事も話題にのぼります。一筆書きですからビームが通った所は濃度が濃くなりビームと次のビームの間は谷間になり濃度が薄くなってしまうと言う現象です。以前は問題とならなかったものがトランジスタなどの微細化で顕著になってきました。熱拡散で均一にはなりますが将来は問題となるかも知れません(図7)。

図7-均一性

図7-均一性

図8はレトログレードウエルというシリコン面から深さ方向に3段にフロファイルを持ったウエルです。パンチスルー、ラッチアップ、ホットキャリア対策に効果のある構造です。インプラでのみ可能な制御技術ですが、この様に拡散濃度とプロファイルコントロールは需要な役割を果たしています。

図9-レトログレードウエル

図9-レトログレードウエル

 

 

 

 

 

 

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